PGD 2008 #1

“PSYCHE-GA-DELIC 2008”
July 19th (Sat)
ギターとペインティングによるアンビエントセッション #1

PDG2008 #1

cloudchairとしては久々のライブ。しかも90分間ものギターのソロ演奏というのは未体験だったし、
void+という空間、そしてライブペインティングとのコラボ、と初めての事ばかりで、
期待と興奮の度合いは通常のライブとは比較出来ないものだった。

そもそも事の始まりは、友人のマリオ君とのネットでのやり取りだった。
「イベントやるんだけど、出ませんか?」

これまでcloudchairはライブ活動をほとんど行っていなかった。
昨年発表した”ECHOES AND WHISPERS”はギターのみのアンビエント作品だったし、
その音楽性をどうライブで表現するのかという事について、長らく答えが出せなかった。
ライブハウスとは雰囲気の違う場所でやりたいと思っていたせいもある。
そして春あたりになってやっと、「こんな感じでやりたい」というイメージが漠然ながら浮かんできた。
「フリースペースのような、出来ればシンプルで独特の空気感を持つ場所で
“ECHOES AND WHISPERS”の音世界を基にして、ある程度長時間の即興演奏をする」というもの。
そんな折に、マリオ君からの誘いはタイミングもシチュエーションもハマるものだった。

僕とマリオ君とは、知り合ってから結構長い時間が経っているのだけど
コラボレーションという案が出たのは割と最近のことだ。
(お互いに今のような表現方法を見出すまでに時間がかかったからだろう)
彼が曼荼羅というキーワードを使っていること、それが宗教とは違う意味で根源的なものであること、
そしてその表現は難解ではなく寧ろポップであること、更には即興で表現出来るということ等々…、
とにかく共感出来る点が多くて、是非一緒にやってみたいと思っていた。
それが、void+というミニマルで自由な空間で、約90分のパフォーマンスをさせてもらえるという
じつに、実に恵まれた機会を得ることが出来た。
このめぐり合わせにはとにかく感謝するばかり。

演奏案は幾つか検討したのだけど結局は、その瞬間に感じた音を鳴らし、
それが空間を満たしていく過程をそのまま提示するというやり方を選んだ。
マリオ君のライブペインティングもそのやり方なのだ。
僕も同じ心構えで、僕なりに音の曼荼羅を描こうと思った。
リスクはあるけれど、その分エキサイティングでやりがいがある。
機材面でちょっと問題があったのだけど、それも友人のおかげでクリア。
Goh君、お世話になりました。どうもありがとう!)
良いアンプとエフェクター、そして使い慣れたギターをセッティングして本番に臨んだ。

お互いに即興のパフォーマンスをするとはいえ、実は演奏内容については若干の打ち合わせをしていた。
僕としては、ひとつのフレーズ/雰囲気/音色を発展させていって、
10~20分ずつくらいに区切りながら演奏しようと考えていた。
途中にMCや休憩を挿んだりもして、緊張感だけではなく親密感も生まれたら良いなと思っていた。
いたのだが。
そんな無難なプランは吹っ飛んでしまった。自ら吹っ飛ばした、と言うべきか。



最初の音が鳴った瞬間にスイッチが入り、ドアが開いた。
僕はそのドアの向こう側に漂うものをキャッチして、ギターを使って音に変換するだけだった。
自分の意思で音を選び、自分の身体で演奏しているのだけど、
自分の意識では”作っている”というより”聴いている”ような感覚だった。
瞬く間に変化する音の速度について行くだけで、思考が麻痺してくる。
次々と流れ出てくる音の波に身を任せているうちに、遠いところまで運ばれてしまったようだ。
そうしているのがあまりに心地よくて、僕は演奏を止める事が出来なくなってしまった。
このままずっと続けていたい、そう感じた。

背後からは、感じたものを絵に変換していくマリオ君の気をビシビシ感じた。
そこでは、彼がペンを走らせる音さえも音楽に融合していた。
僕は、今回”会話”のようなコラボレーションはする気がなかった。
僕は僕なりに”音の環境”を創り出して、そこでマリオ君に自由に描いてもらえたら良いと思っていた。
同じ空間で各々が集中し没頭する、その時の意識が澄んでいくような感覚が僕はとても好きだ。
void+の白い空間とそのサイズが醸し出す独特の緊張感も、僕達のパフォーマンスを後押ししてくれたと思う。

どれくらいの時間が経ったのだろう、そう感じる暇もなく演奏を続ける僕の肩を
マリオ君がトントンと叩いた。そろそろ終了、という合図である。
そこで僕はやっと、自分が90分近くもノンストップで弾き続けていた事に気付いた。
拡がり続け、変わり続けた即興のストーリーを終わらせる時間が来た。
多分誰よりも僕自身が名残惜しさを感じながら、ゆっくりと慎重にエンディングを奏でた。
最後の音が鳴り止んだ途端、場内からのあたたかい拍手に迎えられた。
その拍手がとても長くて、しかもみんなが笑顔で、僕は花に包まれたような幸せな気持ちになった。

最後に『cloudchair』から短めの3曲を演奏して、この日のパフォーマンスは幕を閉じた。
演奏を終えて、壁面に描かれた曼荼羅を見た時の感動は格別だった。
きれいなもの、気持ち良いこと、それが形になり心に残ったことを確認して
僕は安堵と少しの疲れと大きな喜びの気持ちで満たされた。

~#2へつづく~

live 1

live 2

live 3

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