南部鉄器エフェクター「kgr harmony あられ」レビュー

  • 2020-01-29 (水)

南部鉄器を筐体に使った世界初のエフェクター

 岩手県の工芸品である南部鉄器を筐体に使った世界初のエフェクター「あられ」を紹介します。エフェクター・ブランド「kgr harmony」福嶋圭次郎氏が筐体の素材を探し求め日本全国を旅した先に見つけたのが南部鉄器。そのストーリーは2019年に行われたクラウド・ファンディングのプロジェクトにて詳しく書かれています。

Campfire : 南部鉄器エフェクター開発プロジェクト
https://camp-fire.jp/projects/view/209985

 伝統工芸とのコラボレーションという事で、エフェクターとしては非常に珍しく新聞などのメディアにも取り上げられて話題になっています。この話題のエフェクターの公式動画を制作させていただきました。まずは是非ご視聴くださいませ。

南部鉄器エフェクター「あられ」| Nambu Ironware Effector “ARARE” by kgr harmony

使用機材リスト
ギター
APⅡ MAF-8120GP
FGN NST200
FGN NSG100
ギター・アンプ
Kemper Profiler :(使用モデル:Fender Twin Reverb & Shure SM57)

「あられ」レビュー

 動画の設定を基に解説していきます。

Basic Setting [演奏箇所:0:38 – 1:33]

 最初は”Gain”と3バンドEQ (“Low”, “Mid”, “High”)を12時方向にした基本的設定です。”Volume”は聴感上の音量がバイパス時よりほんの少し上がるくらい(2時くらい)に設定しています。

 まずはシングルコイル・ピックアップとの組み合わせから。基本的な歪みの質は硬めのオーバードライブといった感じです。コンプ感が控えめで比較的オープンな響きを持っています。このようにトランスペアレント系のペダルが持つ要素を備えていますが、その範疇には収まらないようにも思えます。特徴的なのはどっしりした安定感のある重心の低さ、そして中域・高域にも感じられる音の芯の太さです。同じ設定のままハムバッカーに持ち替えてみると、低域の厚みがより強調され音の粘りを感じます。

 シングル/ハムどちらでも感じたのは音の輪郭がとてもくっきりとしている事です。ピッキングのアタック感の抜けが良く、高級アンプ等の感想で称される事が多い「音が速い」という印象を覚えました。

Crunch Setting [1:34 – 1:56]

 ”Gain”を10時くらいにしたクランチ設定です。低域の厚さ・中域の旨み・高域のざらつきが程良いバランスです。3バンドEQがちょうどそれぞれのポイントに効くので、好みのバランスを探れるでしょう。ストローク・カッティング・単音いずれにも使えるトーンだと思います。

Clean Setting [1:57 – 2:18]

 ”Gain”を最小付近にしたクリーンな設定です。基本的なトーンは太めですが、”Low”と”Mid”を下げ”High”を上げればきらびやかさな音も狙えます。クリーン・ブースターやプリアンプ的な使い方にもフィットします。

Creamy Drive [2:19 – 2:41]

 ”Gain”を少し上げ、”Mid”を最大に、”Low”と”High”を抑えた中域強調型の設定です。狙ったのは王道のチューブ・スクリーマー的なクリーミー・トーン。中域にフォーカスしたトーンはTSっぽくありつつも、ワイドレンジでクリアなのでよりモダンな印象を受けます。

Controls [2:42 – 3:14]

 各コントロールの効き具合を確かめてみました。

“Gain”は最小では完全なクリーン、以降はクランチ〜ミディアム・ゲインのオーバードライブと変化します。
“Low”は低域の音圧を調整するイメージで、最小でもスカスカにはならず、最大では床が鳴るような帯域が持ち上がってきます。
“Mid”は中域の押し出し感を調整し、音の中心ポイントを移動させるような効果を感じます。
“High”はトーンの明るさを調整し、歪みのぎらつき感にも影響を与えます。

Responsive Setting [3:15 – 3:58]

 ギターのヴォリュームへの反応をチェックしました。「あられ」の”Gain”は2時です。

 まずギター・ヴォリュームを”2″にするとほぼクリーンなトーンが得られます。ここまで下げても輪郭がはっきり出せて、低域も損なっていません。次にヴォリュームを”5″まで上げると、クリーンに薄く歪みが乗ったトーンに変化。そしてヴォリューム最大では飽和感とぎらつきのあるクランチ・トーンへ。

 ギター・ヴォリュームへの反応性はかなり高いです。秀逸なのはレンジ感があまり変わらない点です。手元で歪み感をコントロールしたい人にとっては非常に使いやすいと思います。

Hi-Gain & Mid Scoop [3:59 – 4:21]

 ここで少し極端な設定を試してみました。強力な低域を強調したヘヴィな音を狙います。ここではギターのチューニングも下げてドロップC#、つまり全弦半音下げにして更に6弦を1音下げた設定です。「あられ」は”Gain”最大、”Low”と”High”も最大、そして”Mid”を最小にしたドンシャリ設定。

 ダウン・チューニングの低域も潰れず、重厚感を演出します。モダン・ハイゲイン・ディストーションのような低域のキレはありませんが、重心の低さと音圧はひけを取らないと思います。

Hi-Gain & Mid Boost [4:22 -4:55]

 最後は”Gain”と”Mid”を最大にしたリード向けの設定です。十分な歪みの深さがありつつも芯が潰れず、ヘヴィなバッキングの中でも埋もれないトーンが得られます。速めのフレーズでも輪郭がはっきりしています。


総評

 ここで改めて筐体について触れておきましょう。まずは南部鉄器特有の重厚感あるビジュアル。素材が変わるだけでこんなに存在感が変わるのか、と圧倒されます。黒光りする鉄肌の質感、伝統の職人芸を感じさせる「あられ」と呼ばれる粒の装飾。唯一無二の個性を放っています。そして重量も約730グラムと非常に重いです。見た目も、手に取った重みもインパクトがあります。

 エフェクターの筐体が音に影響するという事は認知されてきていると思います。名機と呼ばれるエフェクターにはメーカー独自の筐体が使われている事も多いです。(例:Fuzz Face, Big Muff, Centaur, Rat等々)この「あられ」の中身を一般的なアルミと南部鉄器の筐体にそれぞれ入れたものを弾き比べましたが、実際違いを感じました。

YouTube : 南部鉄器エフェクター “あられ” 南部鉄器とアルミケース比較 ドライブセッティング
https://youtu.be/qEhQYzSJrYc

 アルミと南部鉄器の筐体を弾き比べてまず確信したのは、「あられ」の回路自体も勿論優れているという事です。歪みの質感やEQの効き、ギター・ヴォリュームへの反応性などは当然回路に由来するものです。その上で南部鉄器の筐体により、どっしりした音の重心や芯の強さ、クリアな輪郭という個性が加味されていると感じました。個性的ではありますが奇をてらったわけではなく、トラディショナルと言っても良い馴染みやすい音を持っています。クリーンからミディアム・ゲインの領域で幅広い用途に使えるオーバードライブです。

 まだ流通が少なく価格もそれなりにするので気軽に買うには躊躇するかも知れません。試奏出来る楽器店も少しずつ増えているようですので、是非実際に目にして触れて弾いてみて欲しいと思います。私の動画とレビューが参考になればと思います。


「あられ」通販リンク

Reverb|kgr harmony直販
https://reverb.com/jp/item/31121679-kgr-harmony-arare-overdrive-2020-black
デジマート|「あられ」販売ページ
「kgr harmony あられ」で検索したページ

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